蒙求和歌
王覇氷合 氷
漢記にいはく、光武1)、邯鄲より、王莽が軍(いくさ)を去りて、南の方、曲陽に至りて呼池2)を渡らむとするに、水早く船無しと言へり。左右の人、をののき、恐れけり。
時に、王覇をつかはして見せらるるに、はかりごとをめぐらして、「氷いたく結びて、渡りぬべし」と申すに、衆人、おほきに喜びて3)、並び渡りにけり。
旅人の駒渡すべき波路かはつららの上と思ひなさずは
駒渡すつららの道を知らせずは思ひよるべき波の上かは4)
王覇氷合 氷 漢記云光武邯(カム)鄲(タム)ヨリ王莽カイクサヲサリテ南ノカタ曲(キヨク) 陽(ヤウ)ニイタリテ呼(コ)池ヲワタラムトスルニ水ハヤク船ナシト云リ 左右ノ人ヲノノキヲソレケリ時ニ王覇ヲツカハシテミセラルル ニハカリコトヲメクラシテコホリイタクムスヒテワタリヌヘシ ト申ニ衆人ヲホキニヨロヨヒテナラヒワタリニケリ/d1-32r