蒙求和歌
盛吉垂泣 初冬
盛吉は廷尉なり。冬の節を迎ふるごとに、いましめける罪人(つみびと)を、裁(ことは)り注(しる)しけり1)。
夜な夜なみづから巡りて、おのおのが形(かたち)を見るに、笞(しもと)の跡をやもへるもあり。鉄鎖(かなぐさり)に痛めるもあり。親を恋ひ、子を恋ふるもあり。寒きを憂へ飢ゑを憂ふるもあり。
盛吉は筆を取りて泣き、妻は灯火(ともしび)を取りて泣く。共に涙を流しけり。
灯火の影冴ゆる夜の明くるまで2)人のやみ問ふ冬は来にけり
盛吉垂泣(セイキチスイキウ) 初冬 〃〃ハ廷尉(テイヰ)ナリ冬ノ節ヲムカウルコトニイマシメケルツミ人ヲ コトハリシ□シケリヨナヨナミツカラメクリテヲノヲノカカタチヲミル ニシモトノアトヲヤモヘルモアリカナクサリニイタメルモアリ ヲヤヲコヒ子ヲコフルモアリサムキヲウレヘウエヲウレウ ルモアリ盛吉ハ筆ヲトリテナキ妻ハトモシ火ヲトリテ ナクトモニナミタヲナカシケリ トモシヒノカケサユルヨノアク□□テ人ノヤミトフ冬ハキニケリ/d1-29l