蒙求和歌
桓景登高 菊
汝南の桓景、費長房に従ひて、道を学びて、年を送りけり。
長房がいはく、「九月九日に、なんぢが家に災ひあるべし。すみやかに家を去りて、家人をして絹(きぬ)の袋に茱萸を入れて、臂(ひぢ)にかけさせて、高き所に登りて、菊花の酒を飲むべし。さて、災ひを去るべきなり」と言ふ。
桓景、この教へのままに、山に登りて、返りて見るに、家の内の猪・鶏・牛・羊、一時(ひととき)に死ににけり。
今日はしも麓(ふもと)の花に酔(ゑ)ひなまし高嶺(たかね)の菊をかざさざりせは
桓景登高 菊 汝南の桓景費長房にしたかひてみちをまなひて年ををくり けり長房か云く九月九日に汝か家にわさわひあるへしすみ やかに家をさりて家人をしてきぬのふくろに朱萸を いれてひちにかけさせて高き所に登て菊花の酒をのむへし さてわさわひをさるへきなりと云ふ桓景このをしゑのままに 山にのほりてかへりてみるに家の内の猪鶏牛羊ひとと きにしににけり けふはしもふもとのはなにゑひなましたかねのきくをかさささりせは/d1-28l