十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
僧徒の勤めには、八宗の修学・一陀羅尼行者・法華持者らなり。おほむね、後世の修因なりといへども、公請におもむく日は、今生の能ともいふべし。
天竺・震旦はさておきつ。わが朝にとりても、弘法1)・伝教2)・慈覚3)・智証4)の四大師をはじめ奉りて、菩薩・和尚号をかうぶらるるたぐひ、聖人・権者の名をあらはす振舞、その証多かれども、面々の霊験・行徳、さのみ5)しるしがたし、なかなか少々を抜き選ぶに及ばず。
管絃の徳、神感の例、あらあら上に書けりといへども、うちあることにつきて、なほ申すべし。
村上6)の御時、三条中納言朝忠卿7)、御前にさぶらひけり。弟朝成8)、はじめて昇殿ゆりて、小板敷に候す。
主上、小蔀より御覧ずるに、その貌(かほ)、きはめて憎さげなり。笛を吹くよし、聞こしめして、雲太を賜ひければ、内裏も響くばかり吹きたりけり。
形もたちまちに美麗にぞ見えける。
僧徒ノ勤ニハ、八宗ノ修学一陀羅尼行者法花持者
等也、大旨後世ノ修因也トイヘトモ、公請ニヲモムク日ハ今
生ノ能トモ云ヘシ、天竺震旦ハサテヲキツ、我朝ニトリ
テモ弘法伝教慈覚智証ノ四大師ヲ始奉テ、菩薩和
尚号ヲカフフラルル類、聖人権者ノ名ヲアラハス振舞、
其証多カレトモ、面々ノ霊験行徳サクミ注カタシ、中
中少々ヲヌキエラフニ及ハス、管絃ノ徳神感ノ例粗/k97
上ニ書リトイヘトモ、ウチアル事ニ付テ猶申ヘシ、
六十一村上御時三条中納言朝忠卿御前ニサフラヒケリ、弟朝成
始テ昇殿ユリテ小板敷ニ候ス、主上小蔀ヨリ御覧ス
ルニ、其㒵極テニクサケナリ、笛ヲフクヨシ聞食テ、雲太
ヲ給ケレハ、内裏モヒヒクハカリ吹タリケリ、形モ忽ニ美
麗ニソ見エケル、/k98