十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
『伊勢物語』には、二条后1)につかふまつる男、同じく女の候ふを、見かはして、よばひけれども、つれなかりけるに、「いかで、ものごしに対面して、おぼつかなく思ひつめたること、少しはるかさん」と言ひければ、女、いと忍びて、ものごしにあひにけり。
物語などして、
彦星に恋はまさりぬ天の川隔つる関を今はやめてよ
この歌にめでて、あひにけり。
かくはいへども、まことは后のこととぞ。
四十四伊勢物語ニハ二条后ニツカフマツル男同ク女ノサフラフ ヲ見カハシテヨハヒケレトモ、ツレナカリケルニ、争物コシニ 対面シテ、オホツカナク思ツメタル事スコシハルカサント 云ケレハ、女イトシノヒテ、物コシニアヒニケリ、物語ナトシテ、 ヒコホシニ恋ハマサリヌアマノ川ヘタツルセキヲ今ハヤメテヨ、 此哥ニメテテ逢ニケリ、カクハイヘトモ誠ハ后ノ事トソ、/k80