今物語
ある人、歌詠み集めて、三位大進1)と聞こえし人のもとに行て、見せ合はせけるに、「侍る(はべる)」といふことを詠みたりけるを、「歌の詞(ことば)にあらず」と言ひければ、「古き歌にまさしくあり」と言ひけり。
「よもあらじものを」と言ふに、「いで、引き出でて見せ奉らむ」とて、古今を開きて、
山がつの垣穂に這へる(はへる)青つづら
といふ歌を見せける、いとをかしかりける。
ある人哥よみあつめて三位大進ときこえし人のもとに 行て見せあはせけるにはへるといふ事をよみたりける を哥のことはにあらすといひけれはふるき哥にまさしく ありといひけりよもあらし物をといふにいてひきいててみせ たてまつらむとて古今をひらきて 山かつのかきほにはへる青つつら といふ哥をみせけるいとおかしかりける/s26l