今物語
宇治の左の大臣(おとど)1)の、御前に銀を桐火桶(きりびをけ)に積ませられて、頼政卿のいまだ若かりけるとき、召しありて、「桐火桶と我が名を隠し題にて、歌つかうまつりて、これを賜はれ」と仰せごとありければ、とりもあへず、
宇治川の瀬々の白波落ちたぎり氷魚(ひを)今朝(けさ)いかに寄(よ)り増(ま)さるらん
と詠みたりけり。めでさせ給ひけるとなむ。
宇治のひたりのおととの御前に銀をきりひをけに つませられて頼政卿のいまたわかかりける時めし ありてきりひおけとわか名をかくし題にて歌つかうまつり てこれをたまはれとおほせ事ありけれはとりもあへす 宇治河の瀬々の白波おちたきりひおけさいかによりまさるらん とよみたりけりめてさせ給ひけるとなむ/s11r