今物語
粟田口の別当入道1)といひける人、若くて、人を思ひけるに、やうやうかれがれになりて後に、思ひ出でて、糸のありけるを、遣(や)りたりければ、糸を返して、歌をなん詠みたりける。
忘られて思ふばかりのあらばこそかけても知らめ夏引の糸
粟田口の別当入道といひける人わかくて人をおもひ けるにやうやうかれかれになりて後におもひいてていとの ありけるをやりたりけれはいとを返して哥をなん よみたりける わすられておもふはかりのあらはこそかけてもしらめ夏引の糸/s8l