今物語
このころの事かや、ある田舎人、優(いう)なる女を語らひて、京(みやこ)に住み渡りけるが、とみのことありて、田舎へ下りなんとしける。
その夜となりて、この女、例ならずうちしめりて、後ろ向きて寝たりけるを、男、いたう恨みてけり。「いつまでか、かくも厭(いと)はれ参らせむ。ただ今ばかり、向き給ひてあれかし」と言ひけるに、この女、
いまさらに背(そむ)くにはあらず君なくてありぬべきかと慣らふばかりぞ1)
と言ひたりければ、男、愛(め)で惑(まど)ひて、田舎下り止まりにけるとかや。
いとやさしくこそ。
このころの事かやあるゐなか人いうなる女をかたらひ て宮こにすみわたりけるかとみの事ありてゐ中へ くたりなんとしけるそのよとなりて此女れいならす うちしめりてうしろむきてねたりけるをおとこいたう/s7l
恨てけりいつまてかかくもいとはれまいらせむたた いまはかりむき給ひてあれかしといひけるにこのをんな いまさらにそむくにはあらす君なくてありぬへきかとならぬはかりそ といひたりけれはおとこめてまとひてゐなかくたりとま りにけるとかやいとやさしくこそ/s8r