今物語
近き御世に、五節のころ、ゆかりにふれて、誰とかやの御局へ、ある女のやむごとなき、忍びて参りたりけることありけるを、ちと聞こしめして、「いかで御覧ぜむ」と思しけるままに、にはかに押し入らせ給ひけり。
とりあへず灯火を人の消ち1)たりければ、御懐(ふところ)より櫛(くし)をいくらも取り出でて、火櫃(ひびつ)の火にうち入れ給ひたりければ、奥まで燃えて、よくよく御覧じけり。
御心の風情、興(けう)ありて、いとやさしかりけり。
ちかき御世に五節のころゆかりにふれてたれとかや の御つほねへある女のやむ事なきしのひてまいりたりける ことありけるをちときこしめしていかて御覧せむとおほ しけるままににはかにをしいらせたまひけりとりあへす ともし火を人のたちたりけれは御ふところよりくしを いくらもとりいてて火ひつの火にうちいれ給ひたり けれはおくまてもえてよくよく御覧しけり御心のふせ いけうありていとやさしかりけり/s7r