平中物語
また、この男、もののたよりに、聞きわたる人ありけり。「その人ぞ1)」とは、この男にもの 言ふ人は友達にて、「もの何にても言ひわづらひ、まめやかに男のために苦しかるべきことを言ふ」と聞きて、からうじて言ひつきにけり。
さて、ほどなく会ひにけり。さて、つとめて、女。
音にのみ人のわたると聞きし瀬をわれも逃れずなりにけるかな
返し、男。
渡り川いかでか人の逃るべき音にのみやは2)聞かむと思ひし
とぞ言ひける。のちはいかがなりにけむ。
又このおとこもののたよりにききわたる人 ありけりその人そとはこのおとこにもの いふ人はともたちにてものなににてもいひ わつらひまめやかにおとこのためにくるしかるへ きことをいふとききてからうしていひつきに けりさてほとなくあひにけりさてつとめて女/21ウ
をとにのみ人のわたるとききしせを我 ものかれすなりにけるかな かへしおとこ わたりかはいかてか人ののかるへきおとにのみや きかむとおもひし とそいひけるのちはいかかなりにけん又この/22オ