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古今著聞集 魚虫禽獣第三十

714 天福のころある殿上人のもとに唐の鴨をあまた飼はれける中に・・・

校訂本文

天福のころ、ある殿上人のもとに、唐(もろこし)の鴨をあまた飼はれける中に、見目はよけれども片目つぶれてありけり。その鴨、行方(ゆきかた)を知らず失せたりければ、「いかなる者の盗みたるやらん」と求められけれども、見えず。

四・五日ばかりありて、この鴨出で来にけり。その羽に札を付けたりけるを、怪しくて取りて見れば、かくなん書きたりける、

  故郷にめぐりあへとて小車(をぐるま)の片輪の鴨を返ししやるかな

翻刻

天福の比或殿上人のもとに唐のかもをあまたかはれ
けるなかにみめはよけれとも片目つふれてあり/s554l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/554

けりその鴨ゆきかたをしらすうせたりけれはいかなる
もののぬすみたる哉らんともとめられけれとも見え
す四五日はかりありてこのかもいてきにけりその
はねにふたをつけたりけるをあやしくてとりて
見れはかくなんかきたりける
 ふるさとにめくりあへとてをくるまのかたわのかもをかへしやる哉/s555r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/555