古今著聞集 魚虫禽獣第三十
寛喜三年夏のころ、高陽院殿の南の大路に堀あり。蝦(がま)数千集まりて、方(かた)きりて食ひ合ひけり。ひとつがひ、ひとつがひ食ひ合ひて、あるいは食ひ殺され、あるいはかた息して腹白(はらじろ)になりてありけり。またまたも多く集まることかぎりなし。
ある者、こころみに蛇(くちなは)を一つ求めて、その中へ投げ入れたりけるに、少しも恐るることなし。蛇もまた飲まむともせず、逃げ去りにけり。京中の者、市をなして見物しけり。
古くも蝦の戦ひはありけるとかや。
寛喜三年夏の比高陽院殿の南の大路に堀あり 蝦数千あつまりて方きりてくひあひけりひと つかひひとつかひくひあひて或はくひころされ或はかたいき してはらしろになりてありけりまたまたもおほくあつ まることかきりなしあるもの心みにくちなわを一も とめてその中へなけいれたりけるにすこしもをそ るる事なしくちなはも又のまむともせすにけさりに けり京中のもの市をなして見物しけりふるくも蝦の/s552r
たたかひはありけるとかや/s552l