古今著聞集 興言利口第二十五
中太冠者といふ年ごろの中間男(ちゆうげんをとこ)に、行縢(むかばき)の余りたりける、一懸け取らせたりけるを、この定(ぢやう)に履きて、いま片皮をば、わが履くべきものとも思はで、「あれをばさて、誰(た)が履き3)候はんぞ」と人に問ひたりける、ただ同じほどのくせごとなり。
このやうを、馬助入道語るを聞きて、つかうまつれる、
履きさして人のためには残すとも片行縢に誰かなるべき
馬助入道関東へ下向の時もかかる事侍き中太冠 者といふ年比の中間男に行縢のあまりたりける一かけ/s423r
とらせたりけるを此定にはきていまかた皮をはわかはく へき物とも思はてあれをはさてたかはきゝ候はんそと 人にとひたりけるたたおなしほとのくせ事なりこの やうを馬助入道かたるを聞てつかうまつれる はきさして人のためにはのこすともかたむかはきにたれかなるへき/s423l