古今著聞集 蹴鞠第十七
知足院殿1)、若くおはしましける時、「白河の辺にて鞠会して遊ばばやと思ひ候ふに、誰をか召加ふべき2)」と、京極殿3)へ申させ給ひければ、しばし御案ありて、「源兵衛佐4)を召し具せよ」と仰せられければ、召しにつかはしてけり。
すなはち参りたりけるを、大殿5)、「何か着たる」と内々御尋ねありければ、濃き香の布狩衣、とりどころ少し赤みたる薄紫の指貫、濃き色の二衣(ふたつぎぬ)、単衣(ひとへぎぬ)着て候ふよし、申しければ、大殿、「さればこそ」と仰せられけり。よくしやうぞきたりと思し召したりけるにこそ。
知足院殿わかくをはしましける時白河の辺にて 鞠会してあそははやと思候に誰をか召くはへきと 京極殿へ申させ給けれは暫御案ありて源兵衛佐 を召具よと仰られけれはめしにつかはしてけり即 参たりけるを大とのなにかきたると内々御尋ありけれ は濃香の布狩衣とりところすこしあかみたる薄 紫の指貫濃色の二衣単衣きて候よし申けれ は大殿されはこそと被仰けりよくしやうそきたり と思食たりけるにこそ/s307r