古今著聞集 馬芸第十四
一条の二位入道1)のもとに、高名の跳ね馬出で来たりけり。秦頼久を召して乗せられたりけるに、ひとたまりもせず跳ね落とされけるを、父敦頼が七十有余にて候ひけるが、これをみて、「悪(わろ)くつかうまつるものかな。敦頼はよも落ちじ」とぞ申しけるを、「老後にいかが」とは入道思ひながら、「さらば乗れかし」と言はれたりければ、やがて乗りて、少しも落ちざりけり。
人々、目を驚かしけり。
一条二位入道のもとに高名のはね馬出来りけり秦 頼久をめしてのせられたりけるにひとたまりもせす はねおとされけるを父敦頼か七十有余にて候けるか 是をみてわろくつかうまつる物かな敦頼はよも落 しとそ申けるを老後にいかかとは入道おもひなから さらはのれかしといはれたりけれはやかて乗てす こしも落さりけり人々目を驚しけり/s266l