古今著聞集 管絃歌舞第七
貞保親王1)、桂川の山荘にて放遊し給ひけるに、平調(ひやうでう)に調べて五常楽をなす間、灯火(ともしび)の後ろに、天冠の影、顕現しけり。
人々おぢ恐れければ、所現の影、みづからいはく、「われは、唐家の廉承武の霊なり。五常楽の急百反(ぺん)に及ぶ所には、必ず来侍るなり」とて失せにけり。
貞保親王桂河の山庄にて放遊し給けるに平調にしらへ て五常楽をなす間ともし火のうしろに天冠の影顕現し けり人々おぢ恐れけれは所現の影みつからいはく我は唐家の 廉承武の霊也五常楽急百反におよふ所にはかならす来侍 なりとて失にけり延喜四年十月大井河に行幸ありけるに/s159r