古今著聞集 和歌第六
宝治元年二月二十七日、西園寺の桜盛りなりけるに、御幸1)なりて、御覧ぜられけり。大臣(おとど)、さまざまの御贈り物を奉られけるうち、五代帝王の筆を参らせらるるとて、
伝へ聞く聖(ひじり)の代々の跡(あと)見ても古きを映す道習はなん
御返し
知らざりし昔に今や帰るらんかしこき代々の跡習ひなば
このこと、昔は天暦の御門2)いまだ御子にておはしましける時、貞信公3)の御もとにわたらせおはしましたりける時、御贈り物に御手本参らせられける時、
君がため祝ふ心の深ければ聖の御代に跡習へとて
御返し、
教へおくことたがはすは行く末の道遠くとも跡は惑はじ
この御歌とも『後撰4)』に入りたり。このためしを思し召しけるにこそ。
宝治元年二月二十七日西園寺の桜盛なりけるに御幸なりて 御らんせられけりおととさまさまの御をくり物をたてまつられける うち五代帝王の筆をまいらせらるるとて つたへきく聖の代々のあとみてもふるきをうつす道ならはなん 御返し しらさりし昔に今や帰るらんかしこき代々のあとならひなは 此事昔は天暦御門いまた御子にておはしましける時貞信公の 御もとにわたらせおはしましたりける時御をくり物に御手本ま いらせられける時/s156l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/156
君かためいはふ心のふかけれはひしりの御代にあとならへとて 御返し をしへをくことたかはすは行末の道遠くとも跡はまとはし この御哥とも後撰に入たり此ためしを思食しけるにこそ住/s157r