古今著聞集 和歌第六
応保二年正月のころ、殿下(てんが)1)、女御殿2)の御方の女房をともなはせ給ひて、禁中を見巡らせ給ひけるに、雪月いとおもしろかりける。内の女房の中より、蔵人の兵衛尉通定をして、女御殿の女房の中へ申し送りける、
月晴れて雪降る雲の上はいかに
通定、左衛門陣の方へ尋ね参りて、このよしを申しければ、早く返事を申さるべきよし、殿下仰せられければ、
立ち帰るべき心地こそせね
応保二年正月の比殿下女御殿の御方の女房をとも なはせ給て禁中を見めくらせたまひけるに雪月いと おもしろかりける内の女房の中より蔵人の兵衛尉通定 をして女御殿の女房の中へ申をくりける 月はれて雪ふる雲のうへはいかに/s120r
通定左衛門陣のかたへたつねまいりてこのよしを申けれは はやく返事を申さるへきよし殿下仰られけれは たちかへるへき心ちこそせね/s120l