古今著聞集 和歌第六
西行法師、法勝寺の花見にまかりけるに、その日、上西門院1)の女房同じく見ける中に、兵衛局2)ありと聞きて、「昔の花見の御幸思ひ出で給ふらん」など言ひて、その日、雨の降りたりければ、かくぞ申しつかはし侍りける。
見る人に花も3)昔を思ひ出でて恋ひしかるらし雨にしほるる
返し、兵衛局、
いにしへをしのぶる雨と誰か見ん花に昔の友しなければ
西行法師法勝寺の花みにまかりけるに其日上西門院 の女房おなしくみける中に兵衛局ありとききて昔の花 見の御幸思いて給らんなといひて其日雨のふりたりけれは かくそ申つかはし侍りける 見る人に花も花も昔をおもひ出てこひしかるらし雨にしほるる 返し兵衛局 いにしへをしのふる雨とたれかみん花に昔の友しなけれは/s119l