古今著聞集 和歌第六
基俊1)、城外しけることありけり。道に堂のあるに、椋(むく)2)の木あり。その木に六歳ばかりなる小童登りて、椋を取りて食ひけるに、「ここをば何といふぞ」と尋ねければ、「やしろ堂と申す」と答へけるを聞きて、基俊、何となく口ずさみに、童に向かひて、
この堂は神か仏かおぼつかな
と言ひたりければ、この童、うち聞きて、とりもあへず、
ほふしみこにぞ問ふべかりける
と言へりけり。
基俊、あさましく不思議に覚えて、「この童はただ者にはあらず」とぞ言ひける。
基俊城外しける事ありけり道に堂のあるにむく(椋)の 木あり其木に六歳はかりなる小童のほりてむくを とりてくいけるにここをはなにといふそと尋けれはやしろ 堂と申とこたへけるをききて基俊なにとなくくち すさみに童にむかひて/s117r
この堂は神か仏かおほつかな といひたりけれは此童うちききてとりもあへす ほうしみこにそとふへかりける といへりけり基俊あさましくふしきに覚てこの 童はたた物にはあらすとそいひける/s117l