古今著聞集 文学第五
後三条院1)、東宮にておはしましける時、学士実政朝臣2)、任国に赴きけるに、餞別の名残りを惜しませ給ひて、御製かかりけるとかや。
州民縦作甘棠詠 州民縦ひ甘棠の詠を作すとも
莫忘多年風月遊 多年風月の遊を忘るること莫かれ
この心は、『毛詩3)』にいはく、「孔子曰、甘棠莫伐。召伯之所宿也4)。(孔子曰く、甘棠伐ること莫かれ。召伯の宿りし所なり。)」といへることなり。
後三条院東宮にておはしましける時学士実政朝臣 任国におもむきけるに餞別のなこりををしませ給て 御製かかりけるとかや/s102r
州民縦作甘棠詠 莫忘多年風月遊 此心は毛詩云孔子曰甘棠莫伐泊之所宿也とい へることなり/s102l