世継物語 ====== 第10話 桂の御子に式部卿の宮給ひける時・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 今は昔、桂の御子((孚子内親王))に、式部卿の宮((敦慶親王))給ひ((大和物語「住み給ひ」))ける時、その女君に候ひけるはゝ((大和物語「うなゐ」。「わらは」の誤りか))は、この男宮をいと目出度と思ひかけ奉りけるを、知り給はざりける。 蛍の飛歩くを、「かれ捕らへて来(こ)」と、この童(わらは)にのたまはせければ、捕らへて汗衫(かざみ)の袖に蛍を包みて御覧ぜさせ聞こえける。   包めども隠れぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり ===== 翻刻 ===== 今は昔かつらの御こに式部卿の宮給ひける時其女君 に候けるははは此男宮をいと目出度と思ひかけ奉りけ るを知り給はさりける蛍の飛ありくをかれとらへてこと此わ らはにの給はせければとらへてかさみの袖に蛍をつつ みて御覧ぜさせ聞こえける つつめどもかくれぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひ成けり/9ウ