世継物語 ====== 第8話 純友が騒ぎの時歌使ひにさされて少将にて下りたりけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 今は昔、純友が騒ぎの時、歌使ひにさされて、少将にて下りたりけり。 公(おほやけ)にもつかうまつる四位になりべき年にもありければ、睦月のかうぶり給ふ日の、いとゆかしう思ゆれど、京より来る人もおさおさ聞えず。或る人にとへば、「四位になり給へる」といふ。「さもあらず」ともいふ。 「定かなる事、いかでか聞かん」と思ふほどに、京の便りに近江守公忠の文あり。いと嬉しくて見れば、万の事、書き書きして、   玉匣(たまくしげ)二年(ふたとせ)会はぬ君が身をあけながらやは会はんと思ひし 限りなく悲しくて泣きける。/9オ ===== 翻刻 ===== 今は昔すみともかさはきの時歌つかひにさされて少 将にて下たりけり大やけにもつかうまつる四位に成へ き年にも有けれはむ月のかうふり給ひのいとゆかし うおほゆれと京よりくる人もおさおさ聞えす或人に とへは四位に成給へるといふさもあらすともいふさたか成 事いかてかきかんと思ふ程に京のたよりに近江守き んたたの文ありいと嬉しくて見れは万の事かきかきして 玉匣二とせあはぬ君か身をあけなからやはあはんと思ひし かぎりなく悲しくてなきける