世継物語 ====== 第7話 亭子院御髪おろして、・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 今は昔、亭子院、御髪(ぐし)おろして、所々の山住し給ひて行ひ給ひけり。 備前の掾、橘の義敏と言ひける人は殿上人にて有りける。御ともに、頭おろして後れ奉らず侍ひける。 内の御使尋ねつつ、奉らせ給へど、たがひつつ歩(あり)かせ給ふ。和泉国日根といふ所におはしますとて、「『ひね』といふ心詠め」と仰せられければ、この義敏大徳、   古郷のたびねの夢に見えつるは思ひやすらんまたと問はねば みな人泣きて、詠まずなりにけるとぞ。 ===== 翻刻 ===== 今は昔亭子院御くしおろして所々の山住し給ておこ なひ給けりひせんのせう橘のよしとしといひける人は 殿上人にて有ける御ともにかしらおろしてをくれ奉 らす侍ひける内の御使尋つつ奉らせ給へとたかひつつ ありかせ給和泉国ひねといふ所におはしますとてひね といふ心よめと仰られければ此義敏大徳 古郷のたひねの夢に見えつるは思ひやすらん又ととはねは みな人なきてよます成にけるとそ/8ウ