宇治拾遺物語 ====== 第182話(巻14・第8話)仲胤僧都、連歌の事 ====== **仲胤僧都連歌事** **仲胤僧都、連歌の事** ===== 校訂本文 ===== これも今は昔、青蓮院の座主((行玄・藤原良実))のもとへ、七宮わたらせ給ひたりければ、「御つれづれなぐさめ参らせん」とて、若き僧綱(そうがう)・有職(いうそく)など、庚申(かうしん)して遊びけるに、上童(うへわらは)のいと憎さげなるが、瓶子取りなどし歩(あり)きけるを、ある僧、忍びやかに、   上童大童子(だいどうじ)にも劣りたり と連歌にしたりけるを、人々、しばし案ずるほどに、仲胤僧都、その座にありけるが、「やや、胤、はやう付きたり」と言ひければ、若き僧たち、「いかに」と顔をまもり合ひ侍りけるに、仲胤、   祇園の御会(ごゑ)を待つばかりなり と付けたりけり。 これをおのおの、「この連歌は、いかに付けたるぞ」と忍びやかに言ひ合ひけるを、仲胤聞きて、「やや、わたう、『連歌だに付かぬ』と付けたるぞかし」と言ひたりければ、これを聞き伝へたるものども、一度に、「はつ」ととよみ笑ひけりとか。 ===== 翻刻 ===== 是も今はむかし青蓮院の座主のもとへ七宮わたらせ給たり けれは御つれつれなくさめまいらせんとてわかき僧綱有職なと 庚申して遊けるにうへ童のいとにくさけなるか瓶子とりなとし ありきけるをある僧しのひやかにうへわらは大童子にもおとりたりと 連歌にしたりけるを人々しはし案する程に仲胤僧都その座に ありけるかやや胤はやう付たりといひけれはわかき僧たちいかにと かほをまもりあひ侍けるに仲胤祇園の御会を待斗なりと付 たりけりこれをおのおの此連歌はいかに付たるそとしのひやかにいひあひ けるを仲胤聞てややわたう連歌たにつかぬと付たるそかしといひたりけれは これをきき伝たるものとも一度にはつととよみわらひけりとか/下92オy437