宇治拾遺物語 ====== 第135話(巻11・第11話)丹後守保昌、下向の時、致経が父に逢ふ事 ====== **丹後守保昌下向ノ時致経ガ父逢事** **丹後守保昌、下向の時、致経が父に逢ふ事** ===== 校訂本文 ===== これも今は昔、丹後守保昌((藤原保昌))、国へ下りける時、与佐の山に、白髪の武士一騎逢ひたり。 路の傍らなる木の下にうち入りて、立ちたりけるを、国司の郎等ども、「この翁、など馬より下りざるぞ。奇怪なり。とがめ下すべし」と言ふ。ここに国司のいはく、「一人当千の馬の立てやうなり。ただにはあらぬ人ぞ。とがむべからず」と制して、うち過ぐるほどに、三町ばかり行きて、大矢の左衛門尉致経((平致経))、数多の兵を具して逢へり。 国司、会釈する間、致経がいはく、「ここに、老者や一人、逢ひ奉りて候ひつらん。致経が父、平五大夫((平致頼))に候ふ。堅固の田舎人にて、子細を知らず、無礼現じ候ひつらん」と言ふ。 致経過ぎて後、「さればこそ」とぞ言ひけるとか。 ===== 翻刻 ===== 是も今は昔丹後守保昌国へ下ける時与佐の山に白髪の 武士一騎あひたり路のかたはらなる木の下にうち入て立たり けるを国司の郎等とも此翁なと馬よりおりさるそ奇怪也 とかめおろすへしといふここに国司のいはく一人当千の馬のたて やう也たたにはあらぬ人そとかむへからすとせいしてうち過る程に 三町はかり行て大矢の左衛門尉致経数多の兵をくしてあへり 国司会尺する間致経か云ここに老者や一人逢たてまつりて候 つらん致経か父平五大夫に候堅固の田舎人にて子細をしらす/下49オy351 無礼現し候つらんと云致経過て後されはこそとそいひけるとか/下49ウy352