大和物語 ====== 第43段 この大徳房にしける所の前に切懸をなんせさせける・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== この大徳(だいとく)(([[u_yamato042|前段]]の恵秀))、房にしける所の前(まへ)に、切懸(きりかけ)をなんせさせける。その削り屑に書き付けける。   籬(まがき)する飛騨の匠のたつき音(おと)のあなかしがましなぞや世の中 なむど言ひて、「行ひしに深き山に入りなんず」と言ひて往にけり。 ほど経て、「いづくにかあらむ」とて、「深き山にこもり給ひぬとありしは、いづくぞ」と言ひやり給ひたりければ、   なにばかり深くもあらず世のつねの比叡(ひえ)を外山(とやま)と見るばかりなり 横川といふところにあるなりけり。 ===== 翻刻 ===== このたいとく房にしける所のまゑに きりかけをなんせさせけるその けつりくつにかきつけける/d23r まかきするひたのたくみのたつき をとのあなかしかましなそやよの中 なむといひてをこなひしにふかき山 にいりなんすといひていにけりほとへて いつくにかあらむとてふかきやまに こもりたまひぬとありしはいつくそ といひやりたまひたりけれは なにはかりふかくもあらすよのつ ねのひえおとやまとみるはかりなり よかはといふところにあるなりけり/d23l