大和物語 ====== 第41段 源大納言の君の御もとにとし子はつねに参りけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 源大納言の君((源清蔭))の御もとに、とし子はつねに参りけり。曹司(ざうし)して住む時もありけり。をかしき人にて、よろづのことを、つねに言ひかはし給ひけり。 つれづれなる日、このおとど、とし子、また、この娘、姉にあたるあやつ子といひてありけり。母に似て、心もをかしかりけり。また、このおとどのもとに、よぶ子といふ人ありけり。それも、もののあはれ知りて、いと心をかしき人なりけり。 これ四人集ひて、よろづの物語し、世の中のはかなきこと、世間のことのあはれなる、言ひ言ひて、かの男詠みける。   言ひつつも世ははかなきをかたみにはあはれといかで君に見えまし と詠み給ひければ、たれだれも返しはせで、集まりて、よよとなん泣きけり。 あやしかりける者どもにこそはありけれ。 ===== 翻刻 ===== 源大納言のきみの御もとにとしこは つねにまいりけりさうししてすむ ときもありけりをかしきひとにて よろつのことをつねにいひかはしたま ひけりつれつれなるひこのおとととしこ又 このむすめあねにあたるあやつこと いひてありけりははににてこころも をかしかりけり 又このおととのもとによふこといふひと/d22r ありけりそれももののあはれしりて いとこころをかしきひとなりけりこ れ四人つとゐてよろつのものかたり し世のなかのはかなきことせけむのこと のあはれなるいひいひてかのおとこよみける いひつつもよははかなきをかたみには あはれといかてきみにみえまし とよみたまひけれはたれたれもかへしは せてあつまりてよよとなんなきけり あやしかりけるものともにこそはありけれ/d22l