大和物語 ====== 第25段 比叡の山に明覚といふ法師の山籠りにてありけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 比叡(ひえ)の山に、明覚((底本「念明覚」。諸本「念覚」「明覚」のいずれかとなっており、このテキストでは最後に「明覚はとしこかせうとなりけり」とあるので、明覚とした。))といふ法師の、山籠りにてありけるに、しとくにてましましける大徳(だいとく)の、はやう死にけるが室(むろ)に、松の木の枯れたるを見て、   ぬしもなき宿に枯れたる松見れば千年(ちとせ)過ぎける心地こそすれ と詠みたりければ、かの室に泊りたりける弟子ども、あはれがりけり。 この明覚は、とし子が兄人(せうと)なりけり。 ===== 翻刻 ===== ひゑのやまに念明覚といふ法師のやま こもりにてありけるにしとくにてま しましけるたいとくのはやうしにける かむろにまつの木のかれたるをみて ぬしもなきやとにかれたるまつみ れはちとせすきける心ちこそすれ とよみたりけれはかのむろにとまり たりけるてしともあはれかりけり此 明覚はとしこかせうとなりけり/d16l