徒然草 ====== 第189段 今日はそのことをなさんと思へど・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 「今日はそのことをなさん」と思へど、あらぬ急ぎまづ出で来てまぎれ暮らし、待つ人はさはりありて、頼めぬ人は来たり。頼みたる方のことは違(たが)ひて、思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。煩(わづら)はしかりつることはことなくて、やすかるべきことはいと心苦し。 日々に過ぎ行くさま、かねて思ひつるには似ず。一年(ひととせ)の中(うち)もかくのごとし。一生の間もまたしかなり。 「かねてのあらまし、みな違ひ行くか」と思ふに、おのづから違はぬこともあれば、いよいよ物は定めがたし。不定と心得ぬるのみ、まことにて違はず。 ===== 翻刻 ===== 今日は其事をなさんとおもへど。あらぬ いそぎ先出来て。まぎれくらし。待人は さはり有て。たのめぬ人は来り。たのみたる 方の事はたがひて。思ひよらぬ道ばかりは かなひぬ。わづらはしかりつる事はこと なくて。やすかるべき事はいと心ぐるし。 日々に過行さま。兼て思ひつるには似ず。 一年の中もかくの如し。一生の間も又/k2-42l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0042.jpg しかなり。かねてのあらまし皆たがひ ゆくかとおもふに。をのづからたがはぬ事も あれば。いよいよ物は定がたし。不定と心得 ぬるのみ誠にてたがはず/k2-43r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0043.jpg