徒然草 ====== 第179段 入宋の沙門道眼上人一切経を持来して六波羅のあたり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 入宋の沙門道眼上人、一切経を持来して、六波羅のあたり、やけ野といふ所に安置して、ことに首楞厳経(しゆれうごんきやう)を講じて、那蘭陀寺(ならんだじ)と号す。 その聖の申されしは、「『那蘭陀寺は、大門北向きなり』と、江帥(ごうそち)((大江匡房))の説とて言ひ伝へたれど、西域伝((大唐西域記))、法顕伝((仏国記・高僧法顕伝))などにも見えず。さらに所見なし。江帥は、いかなる才覚にてか申されけん、おぼつかなし。唐土の西明寺は、北向き勿論なり」と申しき。 ===== 翻刻 ===== 入宋の沙門道眼上人。一切経を持来し て。六波羅のあたり。やけ野といふ所に 安置して。ことに首楞厳経を講 じて那蘭陀寺と号す。其聖の申 されしは。那蘭陀寺は大門北むきなりと。 江帥の説とて云つたへたれど。西域伝、 法顕伝などにもみえす。更に所見なし。 江帥は如何なる才覚にてか申されけん。 覚束なし。唐土の西明寺は北むき勿 論なり。と申き/k2-35r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0035.jpg