徒然草 ====== 第140段 身死して財残ることは智者のせざるところなり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 身死して財(たから)残ることは、智者のせざるところなり。よからぬ物、貯へ置きたるもつたなく、よき物は、「心をとめけん」とはかなし。 こちたく多かる、まして口惜し。「われこそ得め」など言ふ者どもありて、あとに争ひたる、さま悪し。後は誰(たれ)にと心ざす物あらば、生けらんうちにぞ譲るべき。 朝夕、無くてかなはざらん物こそあらめ、そのほかは、何も持たでぞあらまほしき。 ===== 翻刻 ===== 身死して財残る事は。智者のせざる処 也。よからぬ物。たくはへ置たるもつたなく。 よき物は。心をとめけんとはかなし。こち たくおほかる。まして口おし。我こそ えめなどいふものども有て。跡にあらそひ/w2-10r たるさまあし。後はたれにと心ざす物 あらば。いけらんうちにぞゆづるべき。朝 夕なくてかなはざらん物こそあらめ。其 外は何ももたでぞあらまほしき/w2-10l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0010.jpg