徒然草 ====== 第43段 春の暮れつかたのどやかに艶なる空に・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 春の暮れつかた、のどやかに艶なる空に、いやしからぬ家の、奥深く、木立ちもの古りて、庭に散りしをれたる花見過ぐしがたきを、さし入りて見れば、南面(みなみおもて)の格子(かうし)みな下して、さびしげなるに、東に向きて、妻戸のよきほどに開きたる、御簾の破れより見れば、形清げなる男の、年二十(はたち)ばかりにて、うちとけたれど、心にくく、のどやかなるさまして、机の上に文を繰り広げて、見居たり。 いかなる人なりけん。尋ね聞かまほし。 ===== 翻刻 ===== 春の暮つかた。のどやかに艶なる 空に。いやしからぬ家の。奥ふかく。 木だち物ふりて。庭にちりしほれたる 花。見過しがたきを。さし入て見れば。 南面のかうし皆おろして。さびし/w1-33l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0033.jpg げなるに。東にむきて。妻戸のよき ほどにあきたる。御簾のやぶれより見 れは。かたちきよげなるおとこの。とし廿 斗にて。うちとけたれど。心にくく のどやかなるさまして。机のうへに文を くりひろげて見ゐたり。いかなる人なり けん。たづねきかまほし/w1-34r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0034.jpg