徒然草 ====== 第26段 風も吹きあへずうつろふ人の心の花に慣れにし年月を思へば・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 風も吹きあへずうつろふ人の心の花に、慣れにし年月を思へば、あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、わが世の外(ほか)になりゆく習ひこそ、亡き人の別れよりもまさりて、悲しきものなれ。 されば、白き糸の染まんことを悲しび、路のちまたの分かれんことを歎く人もありけんかし。 堀川院((堀河天皇))の百首((堀河百首))の歌の中に、   昔見し妹(いも)が垣根は荒れにけりつばなまじりの菫(すみれ)のみして さびしき気色、さること侍りけん。 ===== 翻刻 ===== 風も吹あへずうつろふ。人の心の花に。 なれにし年月をおもへば。あはれ/w1-22l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0022.jpg と聞しことの葉ごとにわすれぬ ものから。我世の外になりゆくならひ こそ。なき人のわかれよりもまさりてか なしき物なれ。されは白きいとのそまん 事をかなしひ。路のちまたのわかれ ん事をなげく人も有けんかし 堀川院の百首の哥の中に むかし見しいもが垣根は荒にけり つばなまじりの菫のみして。さびし きけしきさる事侍りけん/w1-23r http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0023.jpg