徒然草 ====== 第12段 同じ心ならん人としめやかに物語して・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 同じ心ならん人と、しめやかに物語して、をかしきことも、世のはかなきことも、うらなく言ひ慰まんこそ嬉しかるべきに、さる人あるまじければ、「つゆ違(たが)はざらん」と向ひ居たらんは、一人ある心地やせん。 互ひに言はんほどのことをば、「げに」と聞くかひあるものから、いささか違ふ所もあらん人こそ、「我はさやは思ふ」など、争ひ憎み、「さるから、さぞ」とも、うち語らはば、つれづれ慰まめと思へど、げには少しかこつかたも、われと等しからざらん人は、おほかたのよしなしごと言はんほどこそあらめ、まめやかの心の友には、はるかに隔たる所のありぬべきぞ、わびしきや。 ===== 翻刻 ===== おなじ心ならん人としめやかに物語 して。おかしきことも世のはかなき事 も。うらなくいひなぐさまんこそうれ しかるべきに。さる人有まじければ 露たがはざらんとむかひゐたらんは。 ひとりあるここちやせん。たがひにいはん ほどの事をばげにと聞かひある物/w1-11r から。いささかたがふ所もあらん人こそ 我はさやは思ふなどあらそひにくみ。さ るからさぞともうちかたらはばつれづれ なぐさまめとおもへど。げにはすこしか こつかたも。我とひとしからざらん人は。 大方のよしなしごといはんほどこそ あらめ。まめやかの心の友にははるかに へだたる所の有ぬべきそわびしきや/w1-11l http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0011.jpg