とはずがたり ====== 巻5 24 徒歩なる女房の中にことに初めより物など申すあり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu5-23|<>]] 徒歩(かち)なる女房の中に、ことに初めより物など申すあり。問へば兵衛佐(ひやうゑのすけ)といふ人なり。 次の日還御とて、その夜は御神楽・御手遊び、さまざまありしに、暮るるほどに、桜の枝を折りて、兵衛佐のもとへ、「この花散らさむ先に、都の御所へ尋ね申すべし」と申して、つとめては還御より先に出で侍るべき心地せしを、「かかる御幸に参り合ふも、大菩薩の御心ざしなり」と思ひしかば、「喜びも申さむ」など思ひて、三日とどまりて、御社に候ひて後、京へ上りて、御文を参らすとて、「さても、花はいかがなりぬらん」とて、   花はさてもあだにや風の誘ひけむ契りしほどの日数ならねば 御返し、   その花は風にもいかが誘はせん契りしほどは隔て行くとも [[towazu5-23|<>]] ===== 翻刻 ===== をよろこひてもたた心をしる物は涙はかりなりかち なる女はうの中にことにはしめより物なと申すあり とへは兵衛のすけといふ人なりつきの日くわんきよと てそのよは御かくら御てあそひさまさまありしに くるるほとにさくらの枝をおりてひやうゑのすけのもとへ この花ちらさむさきに都の御所へたつね申へしと申て つとめてはくわんきよよりさきにいて侍へき心ちせしを/s236r k5-56 かかるみゆきにまいりあふも大菩薩の御心さしなりと おもひしかはよろこひも申さむなとおもひて三日ととまりて 御やしろに候てのち京へのほりて御ふみをまいらすとて さても花はいかかなりぬらんとて    花はさてもあたにやかせのさそひけむ契し程の日かすならねは 御返し    その花はかせにもいかかさそはせん契しほとはへたてゆくとも/s236l k5-57 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/236 [[towazu5-23|<>]]