とはずがたり ====== 巻4 4 清見が関を月に越え行くにも・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu4-03|<>]] 清見が関を月に越え行くにも、思ふことのみ多かる心の内、来し方行く先たどられて、あはれに悲し。みな白妙に見え渡りたる浜の真砂の数よりも、思ふことのみ限りなきに、富士の裾、浮島が原に行きつつ、高嶺にはなほ雪深く見ゆれば、五月のころだにも鹿の子斑(まだら)には残りけるに((『伊勢物語』九段による。))と、ことわりに見やらるるにも、跡なき身の思ひぞ、積もるかひなかりける。煙も今は絶え果てて見えねば、「風にも何かなびくべき((『新古今和歌集』雑中 西行「風になびく富士の煙の空に消えて行くへも知らぬわが思ひかな」。))」と思ゆ。 さても、宇津の山を越えしにも、蔦(つた)・楓(かへで)も見えざりしほどに、それとだにも知らず、思ひ分かざりしを、ここにて聞けば、はや過ぎにけり。   言の葉もしげしと聞きし蔦はいづら夢にだに見ず宇津の山越え [[towazu4-03|<>]] ===== 翻刻 ===== きよみかせきを月にこえゆくにもおもふことのみおほかる心 のうちこしかたゆくさきたとられてあはれにかなしみなしろ たへに見えわたりたるはまのまさこのかすよりもおもふこと のみかきりなきにふしのすそうきしまかはらにゆきつつたか ねにはなを雪ふかくみゆれは五月のころたにもかのこまた らにはのこりけるにとことはりに見やらるるにもあとなき身の 思ひそつもるかひなかりける煙もいまはたえはててみえねは 風にもなにかなひくへきとおほゆさてもうつの山をこえしに もつたかへてもみえさりしほとにそれとたにもしらすおもひわか/s169r k4-6 さりしをここにてきけははやすきにけり    ことの葉もしけしとききしつたはいつらゆめにたにみすうつの山こえ/s169l k4-7 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/169 [[towazu4-03|<>]]