とはずがたり ====== 巻3 36 まことや今日の昼は春宮の御方より・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu3-35|<>]] まことや、今日の昼は春宮の御方より、帯刀清景、二藍打(ふたあいうち)上下、松に藤縫ひたり。「うち振舞ひ、緌(おいかけ)のかかりもよしあり」など沙汰ありし、内へ御使参らせられしに、違(ちが)ひて、内裏よりは、頭の大蔵卿忠世((平忠世))参りたりとぞ聞こえし。 このたび御贈り物は、内の御方へ御琵琶、春宮へ和琴(わごん)と聞こえしやらむ。勧賞(けんじやう)どもあるべしとて、一院御給(きう)、俊定((坊城俊定))四位正下、春宮、惟輔((平惟輔。「惟輔」は底本「これはすけ」。))五位正下。春宮の大夫((西園寺実兼))の琵琶の賞は為道((二条為道))に譲りて、四位の従上など、あまた聞こえ侍りしかども、さのみは記すに及ばず。 行啓も還御なりぬれば、おほかたしめやかに名残多かるに、西園寺の方ざまへ御幸なるとて、たびたび御使あれども、「憂き身はいつも」と思えて、さし出でむ空なき心地して侍るも、あはれなる心の中(うち)ならむかし。 [[towazu3-35|<>]] ===== 翻刻 ===== にもあらねはにやこととふかたのなきそかなしきまこと やけふのひるは東宮の御かたよりたちわききよかけふた/s159l k3-93 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/159 あいうち上下松にふちぬいたりうちふるまひをいかけの かかりもよしありなとさたありしうちへ御つかひまいらせ られしにちかひてたいりよりはとうの大蔵卿たたよま いりたりとそきこえしこのたひ御をくり物はうちの 御かたへ御ひわ春宮へわこんときこえしやらむけんしやう ともあるへしとて一院御きうとしさた(四位正下)東宮これはすけ 五位正下春宮の大夫のひはのしやうはためみちにゆつ りて四位の従上なとあまたきこえ侍しかともさのみは しるすにをよはす行けいもくわん御なりぬれは大かたし めやかに名こりおほかるにさいをんしのかたさまへ御かうなる とてたひたひ御つかひあれともうき身はいつもとおほえて/s160r k3-94 さしいてむ空なき心ちして侍もあはれなる心の中 ならむかし/s160l k3-95 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/160 [[towazu3-35|<>]]