とはずがたり ====== 巻3 6 秋の初めになりてはいつとなかりし心地もおこたりぬるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu3-05|<>]] 秋の初めになりては、いつとなかりし心地もおこたりぬるに、「標(しめ)結ふほどにもなりぬらんな。かくとは知り給ひたりや」と仰せらるれども、「さも侍らず。いつの((「いつの」は底本「いへの」。))便りにか」など申せば、「何事なりとも、われにはつゆはばかり給ふまじ。しばしこそつつましく思し召すとも、力なき御宿世、逃れざりけることなれば、なかなか何かそれによるべきことならずなど、申し知らせんと思ふぞ」と仰せらるれば、何申しやる方なく、「人の御心の中もさこそ」と思へども、「いな、かなはじ」と申さむにつけても、「なほも心を持ち顔ならむと、われながら憎きやうにや」と思へば、「何とも、よきやうに御はからひ」と申しぬるよりほかは、また言の葉もなし。 [[towazu3-05|<>]] ===== 翻刻 ===== かはまいりぬ秋のはしめになりてはいつとなかりし心地もをこ たりぬるにしめゆふほとにもなりぬらんなかくとはしり給ひ たりやと仰らるれともさも侍らすいへのたよりにかなと申せは 何事なりとも我には露ははかり給ふまししはしこそつつま/s120l k3-15 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/120 しくおほしめすともちからなき御しゆくせのかれさりけること なれはなかなか何かそれによるへき事ならすなと申しらせんと おもふそと仰らるれは何申やるかたなく人の御心の中 もさこそとおもへともいなかなはしと申さむにつけてもなを も心をもちかほならむと我なからにくきやうにやとおもへは なにともよきやうに御はからひと申ぬるよりほかは又言の葉 もなしその比真言の御たんきといふ事はしまりて/s121r k3-16 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/121 [[towazu3-05|<>]]