とはずがたり ====== 巻1 44 年も暮れ果てぬれば心の内のもの思はしさはいとどなぐさむ方なきに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu1-43|<>]] 年も暮れ果てぬれば、心の内のもの思はしさは、いとどなぐさむ方なきに、里へだにえ出でぬに、今宵は東(ひむがし)の御方((洞院愔子))、参り給ふべき気色の見ゆれば、夜さりの供御果つるほどに、「腹の痛く侍り」とて、局へすべりたりしほどに、「如法(によほふ)夜深し((雪の曙の言葉))」とて、上口(うへくち)にたたずむ。「世中の恐しさいかが」とは思へども、このほどはとにかくに積りぬる日数言はるるも、ことわりならずしも覚ゆれば、忍びつつ局へ入れて、明けぬ先に起き別れしは、今日を限りの年の名残には、ややたちまさりて覚え侍りしぞ、われながら、よしなきもの思ひなりける。 思ひ出づるさへ、袖濡れ侍りて。 [[towazu1-43|<>]] ===== 翻刻 ===== もつゆけくそみえ給しとしも暮はてぬれは心の うちの物おもはしさはいととなくさむかたなきにさと へたにえいてぬにこよひはひむかしの御かたまいり給 へきけしきのみゆれはよさりのく御はつる程に はらのいたく侍とてつほねへすへりたりしほとに/s59l k1-109 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/59 如法夜ふかしとてうへくちにたたすむ世中のをそ ろしさいかかとは思へともこの程はとにかくにつもり ぬる日かすいはるるもことはりならすしもおほゆ れはしのひつつつほねへいれてあけぬさきにおき わかれしはけふをかきりのとしの名残にはややたち まさりておほえ侍しそ我なからよしなき物おもひ なりける思ひいつるさへ袖ぬれ侍りて/s60r k1-110 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/60 [[towazu1-43|<>]]