とはずがたり ====== 巻1 13 二月の初めつかたになりぬれば今は時を待つ御さまなり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[towazu1-12|<>]] 二月(きさらぎ)の初めつかたになりぬれば、今は時を待つ御さまなり。九日にや、両六波羅((南方の北条時輔と北方の北条義宗))、御とぶらひに参る。面々に歎き申すよし、西園寺の大納言((西園寺実兼))披露せらる。 十一日は行幸、十二日は御逗留、十三日還御などはひしめけども、御所の内はしめじめとして、いと取り分きたるものの音(ね)もなく、新院御((後深草院))対面ありて、かたみに御涙ところ狭(せ)き御気色も、「よそさへ露の」と申しぬべき心地ぞせし。 さるほどに、十五日の酉の時ばかりに、都の方に、おびたたしく煙(けぶり)立つ。「いかなる人の住まひ所、跡(あと)なくなるにか」と聞くほどに、「六波羅の南方式部大輔((北条時輔))、討たれにけり。その跡の煙なり」と申す。あへなさ申すばかりなし。 九日は君の御病の御とぶらひに参り、今日とも知らぬ御身に先立ちて、また失せにける。東岱前後の習ひ、はじめぬことながら、いとあはれなり。十三日の夜よりは、ものなと仰せらるることも、いたくなかりしかば、かやうの無常も知らせおはしますまでもなし。 [[towazu1-12|<>]] ===== 翻刻 ===== きさらきのはしめつかたになりぬれはいまは時をまつ御さま なり九日にや両六波羅御とふらひにまいるめむめむになけき 申よしさいをんしの大納言ひろうせらる十一日は行幸十 二日は御とうりう十三日還御なとはひしめけとも御所のうちは しめしめとしていととりわきたるもののねもなく新院御たい めんありてかたみに御涙所せき御けしきもよそさへ露 のと申ぬへき心ちそせしさる程に十五日のとりのとき はかりに都のかたにおひたたしくけふりたついかなる/s17l k1-25 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/17 人のすまい所あとなくなるにかときく程に六はらの 南方式部大輔うたれにけりそのあとのけふりなりと申 あへなさ申はかりなし九日は君の御病の御とふらひに まいりけふともしらぬ御身にさきたちて又うせにけるとう たい前後のならひはしめぬ事なからいとあはれ也十三日 の夜よりは物なとおほせらるる事もいたくなかりし かはかやうのむしやうもしらせおはしますまてもなし/s18r k1-26 http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/18 [[towazu1-12|<>]]