[[index.html|醒睡笑]] 巻8 秀句 ====== 8 和泉の堺にてこれへ参る道に鈍なる男あり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho8-121|<>]] 和泉の堺にて、これへ参る道に、鈍なる男あり。何やらん、手に持ちてゐたるを、横道(わうだう)なる者、通りざまにおつとり逃げ行く。「やれ盗人よ」と呼ばはれば、結句、「取りはせぬ。買うた」とあらがふ。誰も極むる者なうて、捕手(とりて)のものにぞ((「にぞ」は底本「こそ」。諸本により訂正。))なりける。 「かれを見るに、たちまちわが物を奪はれても、所(ところ)に正路(しやうろ)なる地頭なくは、浅間しや、取られ損にこそならんずれ」と語るに、「取られても、取りても、隠れはあるまいが」と問ふ時、「されば、右申せしは嘘なり。まことは、今朝、鳶(とび)か魚をくはへ((「くはへ」は底本「くはん」。諸本により訂正。))来たり。宿院(しゆくゐん)の内にて食らはんとするところに、松の上より烏飛び下り、これを奪ひ取り、木の上にて食らふ。鳶は『ひいるぬす人((昼盗人・鳶の鳴き声))』と叫べば、烏は『かうた、かうた((買うた・烏の鳴き声))』と言うて、おのが徳にぞなしたる」。をかしげにて心深し((底本この文小書き。))。 「烏は鳥中の曽参(そうしん)」とあり。 [[n_sesuisho8-121|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 和泉の境にてこれへ参る道に鈍なる男あり何   やらん手に持てゐたるを横道なるものとをり   さまにをつとり逃行やれ盗人よとよははれば/n8-46r   結句とりはせぬかうたとあらがふ誰もきはむる   者なふてとりての物こそなりけるかれを見る   にたちまち我物を奪れてもところに正路なる   地頭なくは浅間しやとられ損にこそならん   すれとかたるにとられてもとりてもかくれはある   まいがととふ時されは右申せしはうそなり   実は今朝鳶か魚をくはん来り宿院の内   にてくらはんとする処に松の上より烏飛おり   これをうはひとり木の上にてくらふ鳶は/n8-46l   ひいるぬす人とさけべは烏はかうたかうたといふて   をのか徳にそなしたる おかしけにてこころふかし   烏は鳥中の曽参とあり/n8-47r