[[index.html|醒睡笑]] 巻8 頓作 ====== 35 一目見るからむつかしさうなる者紺屋に来たり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho8-034|<>]] 一目見るからむつかしさうなる者、紺屋(こうや)に来たり。「この布を染められよ。わが好みあり。肩には上々の佳酒(よきさけ)を、腰にはかたのごとく中なる酒を、裾(すそ)には下(げ)の下、食らはれぬ酒を付けてよかるべし」と言うて帰りぬ。 その後(のち)日を経(へ)、「染め物出で来たるや」。「なかなか」とて渡すを見れば、上々の酒には麻がら((麻がら・浅辛))を、中の酒には烏((烏・辛酢))を、下の下食らはれぬ酒には洲浜(すはま)((洲浜・酢甘))を付けたれば、かの男、ねだれんやう((「やう」は底本「女」。諸本により訂正。))もなかりし。 染屋に賃(ちん)を高うやりたい((「やりたい」は底本「やうたい」。諸本により訂正。))   夏の夜は酒のおりにもさも似たりのみにくうして((飲みにくう・蚤に食う))かこそ((香こそ・蚊こそ))わるけれ   この夏はかなしと((悲しと・蚊なしと))思ふこともなしのみくふこと((飲み食ふ・蚤食ふ))の不足なければ [[n_sesuisho8-034|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 一目見るからむつかしさうなる者紺屋に来り   此布を染られよ我がこのみあり肩(かた)には上々の   佳酒(よきさけ)を腰にはかたのことく中なる酒をすそに   は下の下くらはれぬ酒をつけてよかるべしと   いふてかへりぬ其後日を経そめ物出来たるや   中々とてわたすを見れは上々の酒には麻(あさ)から/n8-15l   を中の酒には烏を下のけくらはれぬ酒には   洲浜(すはま)をつけたれは彼男ねたれん女もなかり   し   染(そめ)屋にちんをたかうやうたい    夏の夜は酒のおりにもさもにたり     のみにぐふしてかこそわるけれ    此夏はかなしとおもふ事もなし     のみくふ事のふそくなけれは/n8-16r