[[index.html|醒睡笑]] 巻7 謡
====== 18 あの幽霊といふ者は、何とて足袋を欲しがるぞ・・・ ======
===== 校訂本文 =====
[[n_sesuisho7-075|<>]]
「あの幽霊といふ者は、何とて足袋を欲しがるぞ。まことや死出の山、刀山釼樹(たうざんけんじゆ)の嶮難(けんなん)にもいる物かや。不思議なることかな」と独り言に言うて感ずる者あり。「そなたは、いつ幽霊に会うて、足袋を履きたるをば見たぞ」と尋ねければ、「いや、『これは過ぎつる夕暮れに、あの松かげの苔の下、亡き跡問はれ参らせつる、松風・村雨二人
の女の幽霊、これまで参りたり((謡曲「松風」))』とあれば、かの兄弟の幽霊にはすんだぞとよ。その二人は僧に会うて、『わが跡問ひてたび給へ((賜び給へ・足袋給へ))』と乞うたは、さて」。
また極楽とはいへども、足の冷ゆるところやらん。「たび給へ」とは謡うたかやとも((底本この行、数文字下げで小書き。))。
[[n_sesuisho7-075|<>]]
===== 翻刻 =====
一 あの幽霊(ゆふれい)といふ者はなにとて足袋(たび)をほし/n7-40r
かるそ実(まこと)や死出(しで)の山刀山(たうさん)釼樹(けんじゆ)の嶮難(けんなん)にも
いる物かや不思義(ふしき)なる事かなとひとりことに
いふてかんする者ありそなたはいつ幽霊(ゆうれい)
にあふてたびをはきたるをば見たそと尋
けれはいや是は過つる夕くれにあの松かけの苔(こけ)
の下なきあととはれ参らせつる松風村雨二人
の女のゆうれいこれまて参りたりとあれ
は彼兄弟の幽霊にはすんだぞとよ其ふた
りは僧にあふて我か跡とひてたひ給へと/n7-40l
こふたはさて
又極楽とはいへとも足のひゆる処やらんたび給へとはうたふたかやとも/n7-41r