[[index.html|醒睡笑]] 巻7 思の色を外にいふ
====== 8 江州安土に箔打十人ばかりみな当宗なり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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江州((近江国))安土に、箔打(はくうち)十人ばかり、みな当宗((日蓮宗))なり。言ひあはせ、与兵衛といふ中(なか)の使を一人かかへけり。これは浄土宗なり。「そも、奉公せむと思はば、日蓮の教門に入れや」と、しきりに勧むれども、合点(がつてん)せず。
ある時、十人の中より金子一枚、与兵衛につかはし、「手前ならずは重ねても合力(かふりよく)せんずる。ぜひ受法せよかし」と。与兵衛、力及ばず、大乗妙典((法華経))を頂戴せり。
おのおの悦び、「ついでに女房をも宗旨になせや」と勧めの時、かの与兵衛、申しつることのをかしさよ。「私こそ貧乏((底本表記「貧宝」。))ゆゑ地獄に落ち候ふとも、せめて女どもをば((「をば」は底本「をす」。諸本により訂正。))助けたうござある」と((「と」は底本「も」。諸本により訂正。))
たづね入る人はさまざま変はれども同じ桜をみよし野の奥
にてあるものを((以下、[[n_sesuisho7-009|次の条]]に続く。))。
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===== 翻刻 =====
一 江州安土(あつち)に箔打(はくうち)十人斗みな当宗なり
いひあはせ与兵衛といふなかの使を一人かか
へけりこれは浄土(しやうど)宗なりそも奉公せむ
とおもはは日蓮(にちれん)の教門(げうもん)に入やと頻にすすむ
れども合点(かつてん)せず有時十人の中より金子一
枚(まい)与兵衛につかはし手前ならすはかさねて/n7-7r
も合力せんずるせひ受法(しゆほう)せよかしと与兵衛
力をよはす大乗(ぜう)妙典(めうてん)を頂戴(ちやうだい)せりをのをの
悦ひ次女房をも宗旨になせやとすす
めの時彼与兵衛申つる事のおかしさよ私
こそ貧宝(びんぼう)故(ゆへ)地獄(ぢごく)におち候ともせめて女
ともをすたすけたう御さあるも
たつね入人はさまさまかはれとも
同し桜をみよし野のおく
にてあるものを/n7-7l