[[index.html|醒睡笑]] 巻7 思の色を外にいふ
====== 5 当宗の寺へ檀那のもとよりこの者を目代にして庫裏に置き使はれ候へと・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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当宗((後の文から日蓮宗と分かる。))の寺へ、檀那のもとより、「この者を目代(めしろ)にして、庫裏(くり)に置き使はれ候へ」と、年五十ばかりなる男をあてがへり。理知義(りちぎ)に重宝なるが、朝暮(てうぼ)高声(かうしやう)に念仏す。坊主、心憂きことに思ひ、教化(きやうげ)すれども、さらに同心せず。しひて言ふ、「なんぢ、経をいただきたらば、信心深き者と披露し、給分(きうぶん)のほかに合力(かうりよく)を増させん」と勧むる時、あらかじめ領状(りやうじやう)しけり。
かくて十月十三日、御影供(みえいぐ)に、諸檀那みな集まれる座敷へかれを呼び出だし、件(くだん)の趣(おもむき)をひろめ、受法さするに、かの男、「そのことなり。いろいろ嫌(いや)と言へども、種々教訓のゆゑ、経をいただきて候ふ。さりながら、いただきたる経を糸瓜(へちま)とも思ふにこそ」と。
ありがたいと言うてをらいで、情のこはさは((「こはさは」は底本「こはさす」。諸本により訂正。))どちも負けまい((底本この行一字下げで小書き。))。
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===== 翻刻 =====
一 当宗の寺へ檀那のもとより此者を目代(めしろ)
にして庫裏(くり)に置つかはれ候へと年五十斗
なる男をあてがへり理知義(りちぎ)に重宝(てうほう)なるが
朝暮高声に念仏す坊主心うき事に
思ひ教化(きやうけ)すれとも更に同心せずしいていふ
汝経をいただきたらば信心ふかき者と披露(ひろう)し/n7-5l
給分(きうふん)の外に合力(かうりよく)をまさせんとすすむる時あら
かしめ領状(りやうしやう)しけりかくて十月十三日御影(ゑい)
供(く)に諸檀那みなあつまれる座敷(さしき)へかれ
をよひ出し件の趣(おもむき)をひろめ受法(しゆほう)さする
に彼男其事なりいろいろいやといへども
種々教訓(きやうくん)のゆへ経を頂(いたたき)て候さりなから
いただきたる経をへちまともおもふ
にこそと
ありかたいといふておらゐで情のこはさすとちもまけまい/n7-6r