[[index.html|醒睡笑]] 巻6 推はちがうた ====== 31 関役所の難をのがれんにつくり山伏にしくはあらじと・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho6-113|<>]] 関役所の難をのがれんに、つくり山伏にしくは((「しくは」は底本「しては」。諸本により訂正。))あらじと、信長公((織田信長))天下を知らせ給はぬまでは、みなその相を学べり。 さればにや、ある者、「都は見たし、関々をつくろはんやうはなし、とかくこの真似せん」と出で立つ。東よりのぼりゐしが、駿河なる清見あたりにて、馬に乗りたる山伏・強力、七・八人連れ、ざざめき下る体を見付け、「南無三宝、先達(せんだち)にてやあるらん。さなくとも、常のことにては、さうなく((「さうなく」は底本「な左右なり」。諸本により訂正。))とがめられては恥((「恥」は底本「はつ」。諸本により訂正))なぞ」と思ひ、横道(よこみち)へ隠れ、かの兜巾(ときん)・鈴懸(すずかけ)を脱ぎ、ふるふふるふ元の道へ出で見れば、先の山伏一人もなし。「これは異なことや」と思ひけるが、上(かみ)より下る馬上の山伏は、「向ふよりのぼるこそ、本(ほん)の山伏よ」と見やり、「われはまさしき作り者なるに、とがめられてはいかがせん」と恐れ廻り道し、いかめしき道具どもをば脱ぎて持たせつるこそをかしけれ。 [[n_sesuisho6-113|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 関役所の難を遁れんにつくり山伏にして   はあらじと信長公天下をしらせ給はぬまては皆   其相をまなべりされはにやある者都は見たし関々   をつくろはんやうはなし兎角此まねせんと   出立東よりのほりゐしが駿河なる清見あ   たりにて馬に乗たる山伏強力七八人つれざざ   めき下る体を見付南無三宝先たちにて   やあるらんさなくともつねの事にてはな左右なり   とかめられてははつなぞと思ひ横みちへかくれ/n6-56r   彼ときん鈴懸をぬきふるふふるふ元路へ出みれ   は先の山伏一人もなし是はいな事やと思ひ   けるか上よりくたる馬上の山伏はむかふよりのほる   こそ本の山伏よと見やり我はまさしき作り者   なるにとかめられてはいかがせんと恐れ廻り道し   いかめしき道具ともをはぬきてもたせつるこそ   おかしけれ/n6-56l