[[index.html|醒睡笑]] 巻5 人はそだち ====== 39 野人春の暖かなるに思ひ立ち山家に行く・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho5-105|<>]] 野人、春の暖かなるに思ひ立ち、山家(やまが)に行く。道に桜の花つぼみてありしを、老人、杖に助けられたるが、休みゐたるに問ふ、「これは何といふ木ぞや」。「桜の木といふ」と教ゆるついで、「檜物屋(ひものや)に使ふなる『かば』とは、この木の皮ぞとよ。世にある人はおもしろがりて、この木をもてあそび、歌に詠み、連歌に工夫めさるるなり」。「歌とは何事ぞ」。「さればとよ。五文字・七文字に言葉をつづけ、三十一字に心の色をあらはす」などと、所まだら言ひ聞かせければ、「えこらへぬ物語や」と、領掌(りやうじやう)のふりにて別れしが、五・六日も過ぎ、山より里へ帰る時、見れば花みな((「みな」は底本「もる」。諸本により訂正。))咲乱れたり。「こここそ申しどころ」と、   行きしなにつぼうだ花が来(き)しなにはゑじかつたりや桶とぢの花 [[n_sesuisho5-105|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 野人春のあたたかなるにおもひたち山家に/n5-70r   行道に桜の花莟(つほみ)てありしを老人杖に   たすけられたるかやすみゐたるにとふ是   はなにといふ木ぞや桜の木といふとをし   ゆるついでひものやにつかふなるかばとは   此木の皮(かは)ぞとよ世にある人はおもしろがり   て此木をもてあそび哥によみ連歌に   くふうめさるるなり哥とは何事ぞされば   とよ五文字七文字に言葉をつづけ卅一字   に心のいろをあらはすなどとところまだら/n5-70l   いひきかせけれは得こらへぬ物かたりやと   領掌(りやうじやう)のふりにて別しが五六日も過山   より里へかへる時みれは花もる咲みだれ   たりこここそ申ところと    いきしなにつぼふだ花がきしなには     ゑじかつたりや桶とちの花/n5-71r