[[index.html|醒睡笑]] 巻5 上戸 ====== 9 上戸たる人の上には四返目の大事といふあり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho5-050|<>]] 上戸たる人の上には、「四返目(しへんめ)の大事」といふあり。伝へずんば知るべからず。祝言(しうげん)・無祝言、酒三返とほるは定まれる例なり。また四返の境目(さかへめ)をこせば、五返は言ふに及ばず。されば、座敷毎の時宜に、「はや三返とほりたる。銚子を取り給へ」と言ふは世の常ぞや。亭主、器用にて銚子を出だす時。こなたは((「こなたは」は底本「こなは」。諸本により訂正。))目をふさぎ、手を合はせ、「いやはや正体がおりない。中々に」と言ひて、かまはぬがよし。給仕、大きなる盃を取りてつぐべし。それも知らぬふりよし。おほかた七・八分もつぎたらんと思ふ時分、「これはこれは」と言ひ言ひ、盃に手をかけよ。「はやお手がかかつた」と言ふ。是非に及ばぬふりに受け取れば、「とてもの事に十分につげ」と言はん。これを「四返目の大事」、相伝とぞ。 [[n_sesuisho5-050|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 上戸たる人のうへには四返めの大事といふあり   伝へずんばしるべからず祝言無祝言酒三返と   をるはさだまれる例也又四返の境目(さかへめ)をこせは   五返はいふにをよはずされば座敷毎の時(じ)   宜(ぎ)にはや三返とをりたる銚子をとりたまへ   といふはよのつねそや亭主器用(きよう)にててうし   を出す時こなは目をふさぎ手をあはせいやはや   正体がおりない中々にといひてかまはぬがよし/n5-43r   給仕大なる盃をとりてつぐへしそれもしら   ぬふりよし大かた七八分もつきたらんと思ふ   時分これはこれはといひいひ盃に手をかけよはや   お手がかかつたといふ是非におよばぬふりに   うけとればとてもの事に十分につげと   いはんこれを四返めの大事相伝とぞ/n5-43l